フューチャリスト宣言にみる日本のイノベーション

シリコンバレーの伝道師である梅田氏と脳科学者の茂木氏の対談本。
ネットの可能性について非常に楽観的であるポジティブ全開な本。

フューチャリスト宣言 (ちくま新書)

フューチャリスト宣言 (ちくま新書)

この中で「シリコンバレーのルーツは反権威」(P.35)という題名の節で、興味深い梅田氏の指摘があったので引用する。個人的には、この箇所だけでもこの本に価値はあったと思う。

梅田 シリコンバレーのルーツは、フロンティア精神、テクノロジー志向、反権威、反中央、反体制、それからヒッピー文化、カウンター・カルチャーというか、そのへんの組み合わせといえますね。(中略)。要するに自分一人の能力がテクノロジーによって増幅されなければ、必ず権威に負けるわけですね。権威と闘う道具としてのテクノロジーということです。ユーチューブもそういうことです。日本企業の研究所の若い人たちだって、ユーチューブを一年以上前から見ているわけですよ。でも、ユーチューブを見た瞬間から、俺たちはやっちゃいけないな、と彼らは思ってしまう。その周辺でいろいろな可能性があるのはわかっていてもね。
茂木 自己規制してしまう。法律のことを考える。
(中略)
梅田 日本の電機産業は、電力会社と放送局と政府とNTT、ここに納めている部分がかなり大きいんですね。国のインフラを用意するというメンタリティが会社全体にあって、その中に人材が囲い込まれて、かつてはそれなりにすごくイノベーティブだった。(中略)。ところがインターネットが出てきた瞬間に、インターネットの性質というのは極めて破壊的、アナーキーなので、そこに踏み込めなくなった。(中略)。ユーチューブだったらメディアが壊れるとか。壊して何かをやろう、あるいは壊して新しいものを創造しようということとインターネットの性質はイコールなんです。

元、中の人間からしても、この梅田氏の指摘は非常にうなずけるものがあるし、日本からネット世界にイノベーションが出てこない原因をずばり言っているのではと思う。特に深刻なのは、上がダメと言っているのではなく若い人間が自己規制しちゃっている、ということなんだろうな、と思う。自分もそうだが、Winny開発者に拍手喝采しながらも、自分ではやれないな、と思っている研究者も多いのではないか。
この指摘を受けて、国として日本初といえるネット世界のイノベーションはあと10年して、新しい感覚の人が出てこないと生まれないのではないか、と暗澹たる気持ちになった。ただ、その10年後に、若者の破壊的アイデアをつぶすような人間にはなっていたくないとも思った。