IT産業に勤める人の職業意識

他の方々のblogのトラックバックを使った議論を見て、今回はIT産業に勤める人の職業意識について書いてみようと思う。
梅田望夫さんの「コップ半分の水を見て」というコラムを受けて
http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20050627/p1

antiECOさんが、「驚いた、「My Life Between Silicon Valley and Japan - コップ半分の水を見て」には。」を書いた
http://d.hatena.ne.jp/antiECO/20050627/1119912421

簡単に私が解釈したなりに、議論の流れを述べると、梅田望夫さんが(いわゆる)40代、50代の保守的な層のおかげでIT産業におけるチャレンジ精神旺盛な人が住み辛い世の中になっている。が、梅田さんのblogではそちらには議論を向けずに、IT産業の変化の話をしましょうということである。それに対して、antiECOさんはIT産業だけが重要なのか?という話をしておられる。
私がこのエントリで言いたいことは、IT産業に勤める人間も、人々の恒久的な幸せに寄与したいと思って日々仕事をしているんだ、ということである。
私はantiECOさんが言う所の「若い人」なのかもしれないが、antiECOさんのエントリで気になったのが、実際にIT産業に勤めている人を否定されていることだ。具体的には、このあたり。


人間が生物である限り、食べ、暮らし、新たな生命を育み、そして死んでいくことから逃れることは出来ない。そして、産業の根本はそこに関連したところにある。

いくらうまい飯を食わせる店をネット上で網羅したからと言って、うまい飯をこしらえる人間がいなくなったら終わりなのだ。

コンピュータ上にいくら音源があったって、画像があったって、感動を求めて人はコンサートに出かけるのだ。美術館に絵を見に行く。

確かに、衣食住が確実に保障されない限り、ITなんて無意味なものかもしれない。お腹が空いても、具合が悪くなってもゲームをやりすぎたせいで死亡なんて本末転倒である。
でも、「うまい飯をこしらえる人間」だって、人々に知ってもらわなければ食べに来てくれなくて、もうからない。名演奏家がコンサートをやることだって、あの人はいい演奏をするという評判が広まらなければ誰も演奏を聞きにきてくれなくて、音楽家として生計を立てることが難しくなる。演奏家の場合は国際的な大会で名を挙げればよい、と思うかもしれないが、その場で敗れたら終了だし、口コミで広まることのメリットは無視できないと思う。
antiECOさんのおっしゃることはもっともだが、調理師や芸術家だって評判を広めてくれるためのIT(この場合、具体的にはインターネット)を必要としているわけだ。ITも調理師や芸術家を必要としているが、調理師や芸術家もITを必要としている。つまり、この2つは相互依存の関係であると言いたい。
antiECOさんにその意図はないのかもしれないが、悪意に満ちた見方をするとあのエントリは、IT産業の人間なんていなくなったって世の中回るし困らない、と読めなくもない。
インターネットでは、ワクチンが打てなかったり、餓死しようとして今まさに死にゆくアフリカの子供を助けられないのは事実だろう。でも、未来の病気や餓死者を防ぐことは出来るだろう。なぜなら、ネットを使ってワクチンのためのお金を集金するなど、ITが貢献できる余地はあると思うからだ(実際出来ているかどうかはわからないが)。
少し、自分の話をしよう。
大学の研究室を選ぶ時に、コンパイラの並列化技術を研究している所に行くか、対話ロボットを研究している所に行くか、かなり迷った。その時、自分は「コンパイラ並列化技術は計算機の中で閉じた話だ。対話ロボットの研究を通じて人間自身の研究をすることこそ大学のテーマとしてふさわしいのではないか」と思って、対話ロボットの研究室の門を叩き、職業にまでしてしまった。この時の選択がその後の自分の人生に大きな影響を与えたことは間違いない。
しかし、今になって振り返ってみると、コンパイラの並列化技術であっても、遺伝子解析、病原菌解析や航空機の実世界シミュレーションなどに貢献するし、ひいては病気を直したり、交通機関の発達に寄与しているのである。間接的であるかもしれないが、ITであっても人間の恒久的な世の中に寄与しているのである。
antiECOさんのおっしゃりたいことはこの部分だろうと理解した。

若い人にはヴァーチャルな世界よりは現実世界にもっと目を向けてくれたらと思う。ヴァーチャルな世界には資源の枯渇はないが、現実世界には十分あり得ることだからだ。
ならば、ヴァーチャルな世界の「資源が枯渇しない」という特性を活かして現実世界の「資源が枯渇する」ことによって生じる問題を解決したいと思う。