ボナンザVS勝負脳―最強将棋ソフトは人間を超えるか - レビュー

将棋プログラムとして渡辺竜王に挑戦するまでになったボナンザの開発者保木氏と渡辺竜王との共著本。NHK BS2でのドキュメンタリーもあわせて見ると吉。

ボナンザの開発者は素人であり、将棋の指し手は過去の棋譜からの統計的機械学習によって自動的に決定される。
これは、プロの棋士がアドバイザとしてついている既存の将棋プログラムとはまったく逆の手法のようだが、その結果、指される手がプロの目にも知能を持ったものに映るのは興味深い。

しかし、いままで人工知能と呼ばれていたものは、人間の経験則が作ったルールベースから統計を使った機械学習的なものに移行しつつある。

私の専門の音声認識はその代表的なものだし、(情報ビッグバンも影響しているだろうが)機械翻訳もルールを積み重ねたものから統計的なものが多くなっている。OCRだってそうだし、文字認識も統計的なものが多い。

将棋の場合は局面をどのように見るかといった、大局観が重要であり、そのための評価関数をどのように設計するか(または機械に学習させるか)といった大きな問題があるにせよ、これからは統計的機械学習がメインとなって、「人工知能」と呼ばれる分野が発展していくことを確信させる内容だった。

ま、昔からある議論なんだろうけど、「人間の脳はこうやって音声を理解しているから、コンピューター上にも同様に実装されるべきだ」っていう理屈は果たして真なのか?という問いにも通じるものがあると思う。

第4章の渡辺竜王のプロとしての決意は心強いと思うし、第5章の保木氏の科学についての提言も非常に興味深いものがあります。

「コンピューター将棋ソフトがプロ棋士に勝つ」という身近な話題から、人間の創造性と科学の重要性について説いている本です。みんなに読んで欲しい本だと思います。もしかしたら現代文の問題にも出る内容かもしれません。