「ロボットは人間になれるか」/長田 正 著
タイトルは最悪だと思うが、内容は凄く面白い。これからロボット業界に飛び込む人、ロボットがどういう仕組みで動いているか興味のある人、高校生の夏休みの読書感想文の素材としてもいいですね。非常にオススメです。
- 作者: 長田正
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2005/02/16
- メディア: 新書
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この本を書いた長田さんは電総研で長いことロボットの研究を行ってきた方であり、まさにロボット研究の生き字引と言っていいだろう。そのような方が、一般人にもわかりやすく数式を極力廃したエヴァンジェリスト的な本を書いたことは誠に意義深いことであると思う。
ただ、数式を廃した、と言っても内容は技術的な部分に踏み込んでいるので、技術的説明にアレルギーの無い人向けであろう。しかし、技術のイメージをつかむには十分であり、かつ一般の人にもわかりやすく書いてあると思う。
ところどころ挿入されているコラム的な閑話も、当時のロボット事情を知るには貴重な文である。特に、178ページ目の「知能ロボット事始め」では1970年の電総研の知能ロボット実験に成功した舞台裏が書かれているのだが、自分が大学でイベントのためにロボットを調整していたことを思い出して感慨深かった。電総研のような凄い頭脳が集まっている機関で、「出来るかどうかわからない」というぶっつけ本番のデモをやってのけたという話である。こういうぎりぎりの状況でイノベーションは生まれるのかもしれない。
この本の中で気になったのは1968年の全米コンピューター会議で発表された"A Computer With Hands, Eyes, and Ears."という論文の存在である。この本の説明によれば、今、ほとんどのロボット関連の研究者がやりたいと思っていることの基礎が、この論文中に記述されているロボットによって実現されているそうである。例えば、簡単な音声命令を理解したり、カメラによって対象物の認識をしたり、タスクプランニングや障害物回避なども含まれているそうである。*1
それから37年。機器は進化しても基本的な思想は進化してないということか。音声認識をやっていても思うのだが、最初に研究を始めた人の思想や熱意によって、自分が動かされているだけではないか、というある種の空しさを覚える時がある。自分のやっていることなんて、前の技術の改善に過ぎないんじゃない、と思う瞬間がある。長い歴史で言えば、全く新しいことをやる人なんてほんの一握りなんだろうなぁ。
さて、最初にも書いたが、この本はこれからロボットの研究をする人(特に学生)や、ロボットの歴史を知りたい、ロボットがどういう原理で動いているか知りたいと思っている人には最適な入門書であると思う。是非読んで欲しい。