最新医療を選択する時

久々のコラム。
昨日の「Wikipediaのイレッサの項目の詳しさは異常」というエントリーだが、同様のエントリーをmixiに書いたり、mixiのニュース経由で現役のお医者さんが行っている議論を見たりコメントしたりした。昨日コメントして頂いたショボ書房さんはその中の一人である。
昨日のエントリのコメント欄にも如実に現れているのだが、マスコミが出している医療情報というのは情報が削られて無理矢理わかりやすくしている例が多い。これは医療だけではなく様々なことについて言えることだ。
この問題に対して「記者の勉強不足」と一刀両断することは簡単だが、個人的に問題の根幹はそこにはないと思っている。
mixi日記の自分のコメントには書いたが、医療を行っていく上で重要な前提が医者と患者で共有されていないのでは、と思うことがある。それは「最新の薬や医療はリスクがあり、長年使われてきた薬は評価が定まっていて医者として安心してオススメできる」ということだ。
この前提が共有されていないのは、マスコミがあたかも最新の手術や薬は今まで困難だった病気を取りきれます、として、あらゆる患者に適用可能かのように報道することである。
こういう報道を見る時、我々患者が注意しなければいけないことは、テレビで出ている人は本当にうまく言ったラッキーな人であって、このケースが汎用的に当てはまるわけではない、ということだ。たとえ、テレビで最新の薬で直った人と、自分が同じ病名であったとしても、その人の個人差や副作用の出やすさなどで、薬が効いたり効かなかったりする。もっと言えば副作用で今以上に悪くなるかもしれない。
こういうことは、普段患者と接している医者としては当たり前のことだと思うが、報道を見る医療従事者じゃないマスの人間はそう受け取らない場合がある。病気が「治る」「治らない」の2元論で物事を見てしまいがちだからである。
大きな病気をしたことがない人や、身内で大きな病気をしたことがない人には理解しにくいかもしれないが、医療というのは「治る」「治らない」の2元論で語れるほど単純な世界ではない。例えば終末医療なんかは、もう治らない病気に対して如何にケアしましょうかという話であり、病気を治したり延命させたりといった話ではない。普段の風邪なら別だろうが、特にがんのような重大な病気に対しては2元論で語るのはもの凄く危険なことだ。

私も医者が最新医療を敬遠するという話は、病気をするまではピンとこなかった話である。場合によっては医者の都合でもの言っているんじゃないの、と思っていることもあった。しかし、そうではない*1。この意識は医者と患者できっちり合わせておくべきである。
リスクを理解した上で患者が最新の医療を選択するならば問題はないと思う。が、あとで「こんなはずじゃなかった」と思わないようにするためには、患者の側も医療技術を勉強する努力はした方が良いと思う。

以上の議論は、はてな界隈でも話題のレーシック手術についても同様に当てはまる話だ。Wikipediaのレーシックの項目の欠点の2番目には次のように書いてある。

2. 長期に渡る安全性が検証されていない。

すべての患者は最新医療を選択する時、このことを肝に命じるべきである。

*1:なぜそうではないのかの説明は専門家の方が良いと思うのでここでは書かない